ワイルド・ロード (原題:One Way)

16689534559950.jpg

監督:アンドリュー・ベアード
脚本:ベン・コンウェイ
撮影:トビア・センピ
編集:ジョン・ウォルターズ
出演:コルソン・ベイカー「プロジェクト・パワー」、ストーム・リード『透明人間』、ドレア・ド・マッテオ「ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア」、トラヴィス・フィメル『ウォークラフト』、ケヴィン・ベーコン『ブラック・スキャンダル』

組織から金とコカインを盗んだフレディは、腹部に銃弾を受けながらも命からがら逃げ出し、長距離バスに乗り込む。冷酷無比な女ボスのヴィックは、裏切りを絶対に許さない。フレディと共謀した仲間たちは、次々と捕まり殺されていく。しかし、フレディには何としても逃げ切らなければいけない理由があった。それは、ひとり娘のリリーのためだった。犯罪を繰り返し、父親らしいことは何もできなかった。この金は、せめてものリリーへの償いだった。ヴィックの追手が迫る中、出血多量で意識が朦朧としていく。さらに、車内には怪しい行動を取る乗客もいる。フレディは、藁をもすがる思いで疎遠になっていた父親に助けを求めるが―。

主人公が死地を彷徨いながら、様々な人と出会い、交流しつつ終盤を迎える…というパターンの映画で忘れ得ぬ名作に、『邪魔者は殺せ』(1947年)がある。アイルランド革命に生命を懸けた闘志を演じたジェームズ・メイソンの渾身演技が目に浮かぶ。白黒画面の構築された絵造りに、名匠キャロル・リードの手腕が光る。

翻って74年後の本作には、神との相剋や壮大なテーマ曲はない。登場する男たちの殆どはクズだ。が、携帯電話を多用したスリリングな心理戦、疾走感に満ちたタッチは現代ならではの描写力がある。その時代でなければ獲得し得ない表現なのだ。その意味では、この2作の対比は面白い。

『邪魔者は殺せ』での女優の役割は主人公との同化。花瓶のように控えていたが、本作の女優陣は強い強い!14歳の少女にしても、強靭な意思を配している。主人公のフレディは、少女に慈悲を与えることで聖性を帯びてくる。強奪した金の目的も、幼いひとり娘のためという大義名分がある。

奇しくも『邪魔者は殺せ』では、ジェームズ・メイソンが神父の言葉を引用し、慈悲の心を説く名場面がある。
「どんなに立派な話をしても、慈悲の気持ちが無ければ、ただの虚しい言葉だ。山を動かす程の信仰があっても慈悲の心が無ければ無意味だ」
死の淵を彷徨った者には、魂の純度が結晶するのか…。

ジェームズ・メイソンが重症を負いながらベルファストの街を逃走したのに対し、本作は殆どの場面が長距離バスの車内である。原題は『One Way』。ワンシチュエーション・ドラマとして没入感に長けた構成だ。しかも、舞台はフロリダ州とは思えない降りしきる雨の夜間撮影。主人公は偶然、同じバスに乗り合わせた人々と交流し、携帯電話で外の世界と繋がる。

『エクスペンダブルズ 2』や『トゥームレイダー』のプロデューサーが製作したにしてはアクション場面は少なく、息詰まる心理戦となっている。主演のコルソン・ベイカーは、マシン・ガン・ケリーを名乗るラッパーだが、ラップで自己解放する趣旨のない役を演じるのは苦しかったのではないか。巧みな演技力は特筆に値する。

父親役は、久しぶりの登場、ケヴィン・ベーコン。『フットルース』で‘80年代を席捲した青春スターが、"悪役しか"似合わない顔に変貌しているのも興味深い。冷酷な仕打ちをする家族に絶望しつつも、見知らぬ少女を助け、娘に慈悲を施そうとする主人公の造形が救いである。
(大瀧幸恵)


16689535351211.jpg

2022年/アメリカ映画/英語/97分/ビスタ/5.1ch/映倫G
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム/
© 2022 INSPIRED CREATIONS FILM, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://wild-road.jp
★2022年12月2日(金)より、全国ロードショー

この記事へのコメント