戦場記者

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監督:須賀川拓
撮影:寺島尚彦 宮田雄斗 渡辺琢也 市川正峻
出演:須賀川拓

世界の紛争地を駆け巡ってきた須賀川拓は、TBSテレビのJNN中東支局長として、中東やヨーロッパなどのニュースを多数発信してきた。パレスチナのガザ地区では妻と4人の子供たちを空爆で亡くした男性を、一方のイスラエルではガザから飛来するロケット弾に対して放たれる迎撃ミサイルの様子などを映し出す。そしてアフガニスタンでは、タリバンの支配下で女性の人権が抑圧される実態などをカメラは捉える。

ガザ、ウクライナ、アフガニスタン…。戦場の前線へ勇猛果敢に繰り出して行く須賀川拓は、TBSテレビ局の"社員"にして、“戦場記者”だ。須賀川自身も自らの立場を自覚している。
「取材はしても助けられない。映像で生業を立てている者として『偽善だ』 という指摘があることは知ってる。自分も犠牲にできないものがある。家族は大事だ。できることをやるだけ」
中東支局のデスクがあるロンドンで淡々と語る須賀川。そのスタンスは、あくまで中立を貫く。

最も多く取材をしてきたガザには思い入れがあると言う須賀川。イスラエルとの長い紛争が続く地域である。ガザへの空爆により、妻と4人の息子を失った父親の証言、爆撃直後の現場へ入り、丹念に追う姿から、てっきりパレスチナ側に友好的な報道姿勢なのかと思い込んだ。

子どもたちの教科書を拾う父親。生き残った乳飲み子(キティちゃんの服。日本からの支援物資か?) は、母の服を傍らに置くと、母の匂いがするせいか、よく寝る。 イードと呼ばれるイスラム教の祝祭を迎えるために子どもたちが手作りした飾りをそのまま残している…といった情緒的な場面も切り取っている。

一方、イスラエル軍情報官の言質の矛盾を暴き、警告なしに攻撃している事実を認めさせたり、イスラエル市街アシュドッドに配置された「アイアンドーム」という高精度の迎撃防空システムを紹介するなど、反イスラエル的な描写が続く。観ている側は、"この人、会社員なのに大丈夫なのかしら?イスラエル=米国を批判することになるのに..."などと余計な心配をしてしまった。

直ぐに、自分が日本メディアの"政権忖度姿勢"に毒されていることを恥じた。須賀川は一方に与する気など、さらさらないのだ!率直な心情を吐露する。
「一般的にイスラエルが悪だと言われるが、そんなことはない。パレスチナにも問題がある」
パレスチナの過激派組織ハマスの要職者にも取材し、ハマスの惨さ酷い面も伝えている。戦争には正義も悪もないのだ。
「当事者には解決できない。第三者がどうする?何ができる?とはいえ考えるのを止めたら終わる」

須賀川の姿勢で感服したのは、報道の中立性、エビデンスの取り方だ。ガザ難民キャンプに墜ちた爆弾の破片に製造番号を見つけ、専門家に分析を依頼する。兵器に共通した製造番号でボーイング社製だと分かる。 ボーイング社製...。 私たちが利用する飛行機や電子・防衛システム、衛星、衛星打ち上げ機などを製造する米国最大の輸出企業だ。

米国と聞いて思い起こすのが、昨年の米軍アフガニスタン撤退である。20年に及ぶ長い戦争は終結するも、タリバン支配に成り代わり、今アフガニスタンは最悪の人道危機、飢えと貧困に喘いでいる。須賀川はその点に着目し、外相を訪ねる。
「西側メディアは女性の人権問題を理由に支援を凍結した。実際には9万2000人の女性職員がおり、社会で活躍している。最低限の権利すらない人々が存在するのに支援凍結が正しかったのか?」
須賀川は西側諸国の偽善性を指摘する。外相から具体的な数字を引き出したのも、エビデンス実証の報道姿勢からである。

橋の下の光景は目を背けたくなる程の惨状だ。 密集した多くの人々は動かない。イスラム教で禁止されている麻薬中毒者ばかり。遺体は放置され回収せず。猛烈な腐敗臭が画面からも漂ってくる。血液サンプルの入った注射器を汚水で洗い再利用しようとする中毒者たち。安く質の悪い麻薬のため、中毒から抜け出せないのだ。

カメラはチェルノブイリにも入り行く。ウクライナに侵攻したロシアは、チェルノブイリ原発の放射性物質を埋めた場所に塹壕を掘った。何ら知識のないロシア兵が倒れて行くという。戦争以前の問題だ。
夥しい人間の死を観た後、翻って我が国に目を向ける。昨年の自殺者数は2万1007人。男性は12年連続の減少だが、女性は2年連続増加している。コロナ禍以降、女性の貧困が深刻な状態であることと無関係ではないだろう。別な意味での戦争状態だという点を忘れまい。

偏向のない須賀川の記者精神に胸打たれつつ、自国を省みる機会を得た。
(大瀧幸恵)


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製作:TBSテレビ
配給:KADOKAWA
宣伝:KICCORIT
2022年/日本/101分/5.1ch/16:9
©TBS テレビ
公式サイト:https://senjokisha.jp
★2022年12月16日(金)より、角川シネマ有楽町ほか全国公開

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