離ればなれになっても (原題:Gli anni più belli)

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監督:ガブリエレ・ムッチーノ『幸せのちから』
音楽:二コラ・ピオヴァーニ『ライフ・イズ・ビューティフル』
出演:ピエルフランチェスコ・ファビーノ、ミカエラ・ラマツォッティ、キム・ロッシ・スチュアート、クラウディオ・サンタマリア

1982年ローマ、16歳のジェンマは同級生のパオロと恋におちる。彼の親友のジュリオとリッカルドと共に、弾けるような青春の時を過ごしていた。ところが突然、母親を亡くしたジェンマは、ナポリの伯母の家に引き取られる。1989年、教師、俳優、弁護士と、社会への一歩を踏み出した3人の男たちは、別人のように変わってしまったジェンマと再会する──。

登場人物4人の40年に渡る人生を通して描くイタリア近代史。16歳だった3人の少年と、1人の美少女が、56歳になるまで運命の糸に操られるように出会いと別れを繰り返す。ローマ、ナポリと舞台を移し、変動する社会情勢を背景に、友情の亀裂〜修復、愛憎、赦し、激しい情動を描き出すスケール感溢れるドラマだ。
感情を豊かに表現する話法に長けたガブリエレ・ムッチーノ監督は、イタリア喜劇の伝統を踏襲し、熱く細やかな人情劇を誕生させた。

花火を見る着飾った男女。正装した男がカメラに向かって語りかける。
「私はジュリオ。1982年はローマにいた。私は16歳だった」
映画は時空を超え、スクリーンにはミラーボール煌めく狂乱のローラーディスコが拡がる。踊り回る少年少女たち。
「外で暴動が起きてるぞ!見よう!」
火炎瓶が飛び交う街路。パオロとジュリオは警察に撃たれたリッカルドを病院へ運ぶ。怪我を負いながら助かったリッカルドを"イキノビ"と呼び、以降3人の友情劇が始まる。

リッカルドの両親に招かれた別荘で、3人は「最高の夏」を過ごす。明るい陽光の下、光煌めく海で泳ぎ、中古のベンツを買ってバルセロナへ行こうと計画する。ドタバタ喜劇に穏やかなフェリーニ風の劇伴が流れ、ノスタルジックな雰囲気が濃厚に立ち上がる。これはイタリアでしか描けない青春の追憶、イタリアにしか棲息(?)し得ないラテンラバーたちの物語だ。

もう1本の柱は、パオロの初恋の相手ジェンマの造形である。16歳の頃も、中年以降になっても男を惑溺させずにはいられない妖艶な美女。コケティッシュでワガママで感情をストレートに表すも、純粋さを失わない。イタリアらしいヒロイン像だ。ジェンマと3人のほろ苦くも切ない関係性は、‘89年のベルリンの壁崩壊時にも、‘93年イタリア政変の際も、9.11NY高層ビル襲撃事件でも、折に触れて続く。

社会事相、時代背景を上手く活かしつつ、流れるように感情の機微や人物の転変を描くドラマは、イタリア人の心奥を掴んだに違いない。公開されるや本国で大ヒットを記録したというのも頷ける。物語が生起する臨場感と、それに連動する感情。派手な視覚効果やスペクタクルに一切頼ることなく、人間だけに注視したドラマティックなワンカット長回し撮影が幇助する。

与えられた運命を甘受するほかない4人の人生と心の態様を照らし出していくのだ。 ムッチーノ監督の人間を慈しむ想いはリリシズムと溶け合い、映画の純度を増す。
「愛せよ!歌えよ♪食べよ!」
というイタリア特有の三訓が詰まった映画だ。

家族愛が強いイタリアならではの家族で振り返るイタリア史。映画へのオマージュもふんだんに盛り込まれた楽しさ。次世代に継承されるであろう幸せの予兆が感じられる。
ハリウッドでも活躍するピエルフランチェスコ・ファヴィーノ。『007/カジノ・ロワイヤル』『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』など、日本でも馴染み深いクラウディオ・サンタマリアの人物造形が深く、監督の要求に応えた熱演を見せる。
(大瀧幸恵)


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2020/イタリア/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/135分/
後援:イタリア大使館、イタリア文化会館 
提供:クラシコム 
配給:ギャガGAGA★
© 2020 Lotus Production s.r.l. - 3 Marys Entertainment
公式サイト:https://gaga.ne.jp/thebestyears/
★2022年12月30日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか)全国公開

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