わたしの叔父さん(原題:Onkel)

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監督・脚本・撮影・編集フラレ・ピーダセン
出演:イェデ・スナゴー(クリス)、ペーダ・ハンセン・テューセン(叔父さん)、オーレ・キャスパセン(ヨハネス)、トゥーエ・フリスク・ピーダセン(マイク)

デンマークの農村。酪農を営む叔父と親子のように暮らしている27歳のクリス。少し足が不自由な叔父に手を貸しながら、静かな暮らしを続けている。訪ねてくるのは獣医くらい。マイクと出会って、いつもの暮らしにちょっとだけ違う風が吹く。実は獣医になりたかったクリスに、道が開けるチャンスが訪れる。

「昔ながらの農家の暮らしが消滅する前に映画にしたかった」「主人公が人生の選択に葛藤する姿を描きたかった」
監督のフラレ・ピーダセンは製作動機を語る。本作の丹念に描かれた営農作業を観ながら想起したのは、フレディ・M・ムーラー監督の名作『山の焚火』。そして、人生の選択に葛藤する姿を静謐に表現する様は、小津安二郎監督の一連の家庭劇を重ねていた。ピーダセン監督は小津作品に最も影響を受けたという。ちなみに、デンマークではローアングルで撮ることを「オヅ・ショット」と呼ぶそうだ(!)
全編を通してクローズアップよりマスターショットを多用し、カメラポジションは基本FIXとした点に、明らかな小津作品へのリスペクトが感じられた。主人公が激しく動揺する或る場面のみ手持ちカメラが使用される。ぜひ注目してほしい。この場面を境に、映画は「人生の選択に葛藤」し始める。

起床から叔父の着替えを手伝い、トースターで小麦パンを焼く。伝統的な牛舎で乳牛たちの世話をし、昼食はライ麦パンのオープンサンド。午後の作業後、夕食はソーセージや豚挽ミートボール、キャベツの煮込み、じゃがいも添え。夜は2人でボードゲームに興じる。週に1度は街へ買い物...。こうした日常生活の反復描写が続く。何しろ、映画開始後10分間は台詞が一つもないのだ。
説明的な経過描写を極限まで省いた贅肉のない語り口をピーダセン監督は観客に手渡す。ヒロインはなぜ叔父と2人暮らしをしているのか?27歳の若さで人里離れた農場を継いでいる訳は?ドキュメンタリー映画を思わせる自然な運びから、登場人物たちの視線の交わりから、揺曳する陽炎のように、ゆらゆらとそれらは解きほぐされていく。デンマーク語を解さない身としては、映画の舞台である南部ユトランド地方の方言は分からないが、素朴さを伴う語り口調は伝わった。

自然光撮影による絵画調の映像美も本作の魅力だ。北欧の特徴である下部にだけカーテンが付いた大きな窓から注ぎ込まれる柔らかな光。木目の食堂、居心地の良さそうなリビング(流行りの¨ヒュッゲ¨的空間?)にはペンダントライトの他、幾つもの間接照明が灯り、2人の顔を優しく照らし出す。
フラットな田園風景に曇天の空から射す一筋の光線。生まれて初めてヘアアイロンをかけた髪を揺らす微風。ヒロインがコペンハーゲンで入る回転寿司店では人工照明が画面を支配し、¨非日常¨を表現する。
様々な過程を経て下した終盤の決断は、監督が失われる寂しさではなく受け継ぐ潔さと未来への希望を託したのではないか?
何より、日本人のメンタリティともいえる「小津イズム」が、デンマークに継承されている安らぎと喜びを感じた106分だった。
(大瀧幸恵)


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2019年/デンマーク/デンマーク語/カラー/DCP/シネスコ(1:2.35)/106分/
字幕翻訳:吉川美奈子/デンマーク語監修:リセ・スコウ
後援:デンマーク王国大使館/
配給・宣伝:マジックアワー
(C)2019 88miles
公式サイト:https://www.magichour.co.jp/ojisan/
★2021年1月29日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次ロードショー