ビバリウム (原題:Vivarium)

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監督 :ロルカン・フィネガン
製作:ブレンダン・マッカーシー、ジョン・マクドネル
脚本:ギャレット・シャンリー
出演:ジェシー・アイゼンバーグ(トム)、イモージェン・プーツ(ジェマ)、ジョナサン・アリス(マーティン)、セナン・ジェニングス(少年)、アイナ・ハードウィック(青年)

トム(ジェシー・アイゼンバーグ)とジェマ(イモージェン・プーツ)は、不動産業者に寸分違わず同じ作りの家が並ぶ住宅地を案内される。彼らが家の中をひと通り見学して帰ろうとすると、ついさっきまで一緒にいた不動産業者の姿はなく、二人は奇妙に思いながらも車を走らせる。しかしどこまで行っても同じ風景が続くばかりだった。さらに赤ん坊がダンボールで送られてくる。

タイトルの「ビバリウム」とは、”生物の飼育、展示用の容器”といった意。監督のロルカン・フィネガンは、人間を収容する”家”に強い関心を持っているようだ。未公開の短編、初長編作とも本作のテーマの前哨となっている旨を自ら語っている。勅使河原宏の『砂の女』にインスパイアされたという点も興味深い。足を踏み入れたら元に戻れないと知らず、静かに浸潤して行く不安、恐怖…。やがて迎える精神の崩壊。まさに『砂の女』と通底したテーマである。

更なる主題は「代理親」。冒頭で示されるカッコーの生態に象徴される。カッコーは他の鳥の巣に卵を産み付け孵化させる習性がある。新居を探す若いカップルのトムとジェマは、与えられた”巣”の中で代理親の役目を担わされるわけだ。
この第二の主題で想起するのは、2度に渡り映画化された英国人SF作家ジョン・ウィンダムの小説「呪われた村」。ロンドン近郊にある村の住民全員が一定時間に意識を失った後、村中の妊娠可能な女たちが一斉に出産する。子どもたちは何れも異常に発育が早く、金髪と金色に光る眼を持っていた。個人的には'95年製作のジョン・カーペンター監督『光る眼』より、モノクロ画像が鮮烈だったウルフ・リラ監督『未知空間の恐怖・光る眼』(1960)のほうが、静かなる侵略の恐怖を炙り出しのように伝え、印象深い。ハヤカワ文庫の手触りと、モノクロの荒い映像がリアルな感触を喚起させたのかもしれない。

「呪われた村」の原題は「ミドウィッチ村のカッコー」だ。フィネガン監督の直接的な言及はないが、カッコーの習性を活かした「代理親」のモチーフに影響を与えたことは間違いないだろう。脚本のギャレット・シャンリーは、フィネガン監督と同じアイルランドのダブリン出身。何度もタッグを組んだ2人の集大成ともいえる本作は、登場人物に”人間味”を与えている。

ジェマは小学校教員として温かな母性を発出し、トムは脂臭い汗を感じさせる労働者だ。2人が迷い込む住宅地には雨が降らず風は吹かない。匂いや湿気もない。自然現象は一切ない無菌の空間であることを前提にした巧みな設定だ。ルネ・マグリットの絵画を連想させるシュールレアリスティックな美術セットが秀逸!
粛々と省略を伴いつつ、事態の展開を突き付ける抑制的話法が、観客に緊張感を強い、作品を弛緩から救っている。
(大瀧幸恵)



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2019年製作/98分/R15+/ベルギー・デンマーク・アイルランド合作
配給:パルコ
(C) Fantastic Films Ltd / Frakas Productions SPRL / Pingpong Film
公式サイト:https://vivarium.jp/
★2021年3月12日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国公開