ウォーデン 消えた死刑囚 (原題:The Warden)

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監督・脚本:ニマ・ジャウィディ
出演:ナヴィッド・モハマドザデー、 パリナーズ・イザドヤール

1966 年、イスラム革命前のイラン南部にある刑務所。新空港建設のため立ち退くことになり、所長のヤヘド少佐は、囚人たちを新しい刑務所へ移送する任務を背負うことになった。無事、任務を果たせば大きな出世を約束されており、それは彼にとって難しいことではないと思われた。ところが一人の死刑囚が行方不明との報告が届く。所外への脱走はあり得ないと判断した少佐は所内の徹底した捜索を決意する。事情を聴くために死刑囚を担当していたソーシャルワーカーを呼び寄せるが、美しく聡明な彼女に以前から少佐は惹かれていた。正義とは何か、良心とは? キャリアだけを追いかけてきた少佐はおそらく初めてその問いに直面する。

7年前、ニマ・ジャウィディ監督の長編デビュー作『メルボルン』が東京国際映画祭で上映された際、監督に取材する機会を得た。ある場面について、どうやって撮ったのか?質問したところ、
「それは、ヒミツ!」
とイタズラっぽく答えた後のチャーミングな笑顔が忘れられない。
本作を含め、2本を観た限りでは構築的な作品を撮る印象がある。そして、不穏な空気の醸成も巧みだ。冒頭、大雨に打たれる絞首刑台、アンテナ撤収作業の上を飛行機が飛び去って行く。雨が滴る音、飛行機の轟音…。仄暗い映像と音響が相乗効果となり、実景を捉えながら具象性を纏った力に引き込まれる。

カメラが刑務所内部へ入り、甘い「ある夜のこと~♪」が流れる中、人間が主軸となったドラマが躍動的に動き始めてからは、映画は一気にサスペンスタッチと化す。栄転異動の所長、後任として昇進を約束され興奮を隠せない少佐、恙無く実務を遂行する任官たち。逃げた死刑囚を巡り、様々な人々の思惑が飛び交う。

そして、いつしか舞台は雨から乾いた大地へと転調し、異化効果を生んでいることに観客は気付くのだ。少佐が組織共同体の掟を越えて選択した結果と、当事者を一切登場させない話法を採った監督がリンクし始める。2つが絶妙に重なり合い、感動的な終焉に繋がった。(大瀧幸恵)


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2019 年∕ 90 分 ∕1.85:1 ∕イラン
配給:オンリー・ハーツ
後援:駐日イラン大使館文化参事室
©Iranian Independents
公式サイト:http://just6.5andwarden.onlyhearts.co.jp/
★2021年1月16日(土)より、新宿K’s cinema 他にて公開

43年後のアイ・ラヴ・ユー (原題:Remember Me)

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監督・脚本:マーティン・ロセテ
出演:ブルース・ダーン、カロリーヌ・シロル、ブライアン・コックス

妻が他界してから親友シェーン(ブライアン・コックス)と老後の生活を楽しんでいた70歳の元演劇評論家クロード(ブルース・ダーン)は、元恋人で舞台女優のリリィがアルツハイマー病で介護施設に入ったことを知る。もう一度彼女に会いたいと考えたクロードは、自分もアルツハイマー病のふりをして同じ施設に入所。シェーンの協力を得てリリィと念願の再会を果たすも、彼女の記憶からクロードの存在は完全に失われていた。

先日ご紹介した『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』では、シャンソンが齎す魅力について語った。本作では米国映画らしく、ガーシュインの楽曲が同様な効果を発揮している。やはり、シアトリカルな広がりを持ったガーシュインが奏でられる時、時代は一気に43年前へと遡る。シェイクスピアの「冬物語」を演じた佳人、ニューヨークとパリでの甘い想い出、萌芽な薫りを放つ百合の花々…。これらの馨しい小道具が相乗し、愛する人の記憶を呼び戻す装置となる。ロマンチックな展開だ。

70歳を過ぎた元演劇評論家が主人公だが、有り体の老人映画ではない。暮らしているロスアンゼルスの暖かい陽光と同じく、明るいユーモアに満ちた¨初々しい¨ラブストーリーである。大方の注目は、名優ブルース・ダーンの演技と存在感に集まっているようだ。確かに、思い出の手紙や写真を見ては笑みを浮かべ、「心から愛していたよ、本当に…今でもね」と呟く男は、未だ色香褪せないハリウッドスターならではの深度に達している。

個人的に心惹かれたのは、元恋人役に扮したカロリーヌ・シオルのほうだった。柔らかいシフォンの花柄ワンピースを纏い、緩いウェーブのかかった金髪が顔を覆う。青い瞳はイノセントな少女のように空を見つめている。全身を包むエレガントさ、フェミニンな空気は仏女優のシオルでなければ表現し得なかっただろう。アルツハイマー病に罹患していても恋人の夢を壊さない、愛すべき存在を力まずに造形している。
ちなみに、マリオン・コティヤールがピアフを演じた『エディット・ピアフ~愛の賛歌~』で、マレーネ・ディートリヒに扮したカッコいい女優はシオルである。

監督はスペイン出身の40歳、マーティン・ロセテ。脇役にペドロ・アルモドバル作品の常連女優ヴェロニカ・フォルケや、『ラブ・アクチュアリー』でコリン・ファースの恋人役だった英国女優シエンナ・ギロリーといった¨ハリウッド色に染まらない¨実力派を配したことも、本作が新鮮さを保つ点に貢献した。(大瀧幸恵)


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2019年製作/89分/G/スペイン・アメリカ・フランス合作
配給・宣伝:松竹
(C)2019 CREATE ENTERTAINMENT, LAZONA, KAMEL FILMS, TORNADO FILMS AIE, FCOMME FILM . All rights reserved.
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/43love
★2021年1月15日(金)より、新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

キング・オブ・シーヴズ (原題:King of thieves )

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監督:ジェームズ・マーシュ
出演:マイケル・ケイン、ジム・ブロードベント、トム・コートネイ、チャーリー・コックス
ポール・ホワイトハウス、レイ・ウィンストン、マイケル・ガンボン

かつて「泥棒の王(キング・オブ・シーヴズ)」と呼ばれたブライアン(マイケル・ケイン)。一度は裏社会から引退し、愛する妻と平穏な日々を過ごしていた。しかし、妻が急逝したことをきっかけに、かつての犯罪にまみれた自分が呼び起こされることになる。知人のバジル(チャーリー・コックス)からロンドン随一の宝飾店街〝ハットンガーデン″での大掛かりな窃盗計画を持ちかけられたブライアンは、テリー(ジム・ブロードベント)、ケニー(トム・コートネイ)、ダニー(レイ・ウィンストン)、カール(ポール・ホワイトハウス)ら、かつての悪友たちを集め、平均年齢60歳オーバーの窃盗団を結成。綿密な計画のもといざ実行日を迎えようとしたとき、ブライアンは突然計画から抜けると言い出す・・・。

英国史上「最高額・最高齢の金庫破り」と呼ばれた2015年に発生した有名な事件である。ミステリー好きのお国柄、当時は英国中が¨探偵ホームズ(?)¨と化し、推測合戦が起きたものだ。¨ハットンガーデン・ジョブ¨として何度も映画化・TVドラマ化され、各作品とも英国演劇界の重鎮らが演じてきた。¨世界一俳優の層が厚い国¨だけに、おじいちゃん俳優陣が上手いわ面白いわ、で飽きさせない。本作もご同様。映画ファンなら誰もが知る主演・オスカー級クラスの名優たちが居並ぶ布陣は見応えがある。

題名の「キング・オブ・シーヴズ」は¨泥棒の王さま¨という意味だが、それは過去の話。導入からご老体の¨あるある¨的な話で笑わせつつ、各人の個性が紹介される上手い滑り出しだ。何しろどのおじいちゃんもクセが強い!耳が遠い、腰が痛い、口を開けば憎にくしい悪口雑言を吐き、恥ずかしげもなく檳榔な話を披露、肝心なところはオトボケの老人力を発揮する(笑)。
ベテラン俳優陣から名演を引き出したのは、『マン・オン・ワイヤー』でオスカー®長編ドキュメンタリー賞を受賞し、『博士と彼女のセオリー』『喜望峰の風に乗せて』などのジェームズ・マーシュ監督。実話をドラマ化し、娯楽作に仕上げる技巧に長けている。

本作には嬉しいオマケがある。キャスト陣の若かりし頃、イキのよかった出演作のカットが時折、挟まれるのだ。あの映画この映画…殆ど観てきた作品ばかり。産湯に浸かった時から英国映画を観てきた程の英国好きとしては、懐かしく甘酸っぱい気持ちで一杯になる。有難う、楽しませてくれて…と名優たちの長く偉大な足跡を讃えつつ、これからもどうぞ元気で活躍して!と祈っていた。(大瀧幸恵)


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2018/イギリス/スコープサイズ/108分/カラー/英語/DCP/5.1ch/
配給:キノフィルムズ 
提供:木下グループ
© 2018 / STUDIOCANAL S.A.S. - All Rights reserved 
公式サイト:https://kingofthieves.jp/
★2021年1月15日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
posted by グランマゆきえ at 02:24Comment(0)イギリス