この世界に残されて (原題:Akik maradtak /英題:Those Who Remained)

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監督・脚本:バルナバーシュ・トート
脚本: クララ・ムヒ
原作: ジュジャ・F・ヴァールコニ
撮影: マロシ・ガーボル
製作:モーニカ・メーチ(『心と体と』) エルヌー・メシュテルハーズィ(『心と体と』)
出演:カーロイ・ハイデュク、アビゲール・セーケ、マリ・ナジ、カタリン・シムコー、バルナバーシュ・ホルカイ
 
1948年、16歳のユダヤ人の少女クララ(アビゲール・スーケ)は、家族の中で一人だけホロコーストを生き延びた。天涯孤独の身となった彼女はある日、物静かな医師のアルド(カーロイ・ハイデュク)と出会い、話をするうちに少しずつ彼に心を開いていく。やがてクララはアルドを父親のように慕うようになり、彼もまた少女を庇護することで心の平安を得る。

ハンガリーは何故こうも緻密で静謐さと情動を兼ね備えた傑作映画を生み出し続けるのか。最近作では『心と体と』『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』『ジュピターズ・ムーン』『サウルの息子』。古くは『だれのものでもないチェレ』『暗い日曜日』『メフィスト』『コンフィデンス 信頼』などが挙げられる。何れの作品も夢と現実を揺曳する”うつつ”を見る如く詩的な幻想性を纏う。

本作はホロコーストを経て、“この世界に残された者”として生き延びながら、旧ソ連の支配下で脅かされていく日々の生活を静かに描く。諦観が重奏低音のように社会を覆い、周囲の人々が突然姿を消す。不穏な空気の中、16歳の少女と42歳の医師が互いの孤独を分かつ。
「お茶は嫌いかい?」
「嫌いじゃない物なんてないわ!」
寂しさを覆い隠すように反抗的な態度を取る反骨心旺盛な少女。その瞳が虚空を見る時、宿る哀しみを医師は感じ取っていた。
「父と同じ匂いがする。このままでいたい」
夜道で室内の暗闇で、2人は抱き合う。徹底して光源を排除するカメラ。聞こえるのは微かな2人の息遣いと生活音だけ。観客は目を凝らし、耳をそばだて、否が応でも想像の翼を広げなければならない。
暗い闇に覆われた世界に於いて、一瞬の光芒のような時間を過ごした思い出は、スターリンの訃報を伝える場面から眩さを照らし始める。

監督は43歳。これが長編2作目だという。監督が心のシャッターで切り取った世界が、瑞々しく観客の心に残された。(大瀧幸恵
)

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2019年製作/88分/G/ハンガリー
配給:シンカ
後援:駐日ハンガリー大使館、ハンガリー文化センター
(C)Inforg M&M Film 2019
公式サイト:https://synca.jp/konosekai/
★2020年12月18日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開



AWAKE

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監督・脚本:山田篤宏
出演:吉沢亮(清田英一)、若葉竜也(浅川陸)、落合モトキ(磯野達也)、寛 一 郎(中島透)、馬場ふみか(磯野栞)、川島潤哉(山崎新一)、永岡佑(堀亮太)、森矢カンナ(山内ひろみ)、中村まこと(清田英作)

棋士養成機関である奨励会で棋士を目指していたものの、人並み外れた強さを誇る陸(若葉竜也)に敗れて奨励会から去った英一(吉沢亮)。大学に入学し、コンピュータ将棋と出合い、そのプログラミングに興味を抱く。AI研究会に入った彼は、幼いころから将棋一筋だったために周囲との接し方が分からず戸惑いつつも、先輩・磯野(落合モトキ)の指導を受けながらプログラム開発にのめり込んでいく。数年後、棋士とコンピュータが対局する電王戦への出場を依頼された英一は、相手が陸であることを知る。

冒頭、ライトが照らし出すのは将棋を指している手元のみ。カメラがパンすると、それがロボットとのAI対決だと分かる。繰り広げられているのは、プロ棋士との対局である電王戦。華やかなイベントの電飾。”煽り”が激しい音楽。本作は終始、緊張感を孕んだ場面と、子ども時代の牧歌的な回想シーン、プログラミング開発の焦燥感、といった緩急を自在に駆使し、スタイリッシュな快編となっている。
将棋、プログラミングともに疎くても、映画の出来不出来の判断はお任せあれ!これが長編デビュー作の山田篤宏監督。邦画界にとって、有望な監督の登場が高らかに宣言されたのだ。

人工知能の向こうには、プログラミングを開発した人間がいる。主人公が目標とする「定跡にとらわれない新しい一手を指す頭脳」。盤上に於ける宿命のライバル対決には、人間と人間との熱い血潮が漲っていいるのだ。 子ども時代を除き、2人の男は殆ど言葉を交わさない。山田監督の盤上対決に拘った思いが伝わる巧みな脚本展開は、爽やかな幕切れにまで通底している。

さり気ない劇伴の挿入、カラーリングのコントラスト、テンポの良い編集など、現場を離れた監督がポストプロダクションにも時間をかけ、本作に命を吹き込んだことが理解できる。演じる2人のイケメン実力派俳優と脇を固める演者陣の呼吸も合い、勝負の向こう側にある世界を描き出した。(大瀧幸恵)


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2019年製作/119分/G/日本
配給:キノフィルムズ
(C) 2019『AWAKE』フィルムパートナーズ
公式サイト:http://awake-film.com/
★12月25日(金)より全国公開
posted by グランマゆきえ at 14:52Comment(0)日本

ソング・トゥ・ソング (原題:SONG TO SONG)

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監督・脚本:テレンス・マリック
製作総指揮:ケン・カオ
撮影:エマニュエル・ルベツキ
美術:ジャック・フィスク
衣裳デザイナー:ジャクリーン・ウェストー
音楽:ローレン・マリー・ミクス

出演:ルーニー・マーラ、ライアン・ゴズリング、マイケル・ファスベンダー、ナタリー・ポートマン、ケイト・ブランシェット、ホリー・ハンター、ベレニス・マルロー、ヴァル・キルマー、リッキ・リー、イギー・ポップ、パティ・スミス、ジョン・ライドン、フローレンス・ウェルチ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ

音楽の街として知られるアメリカ・テキサス州のオースティン。フリーターのフェイ(ルーニー・マーラ)は有名プロデューサーのクック(マイケル・ファスベンダー)と内密に交際しているが、そんな彼女に売れないソングライターのBV(ライアン・ゴズリング)は恋心を抱いていた。その一方で、ゲームのように恋愛を楽しむクックは夢を諦めたウェイトレスのロンダ(ナタリー・ポートマン)を口説く。それぞれに幸せを求め、誘惑と裏切りに満ちた世界を生きる4人の人生が重なり合う。

テレンス・マリックの作品には、監督の烙印が押されているかのようだ。独特のスタイルは本作でも終始”スタンプ付き”である。ハリウッド的なドラマツルギーを大きく逸脱し、起承転結すらない。
オスカーを3度受賞したエマニュエル・ルベツキのカメラは、登場人物に寄り添い、まるでダンスをするように自在な動きを見せる。句読点の如く現れる鳥の群れを仰ぎ見るアングルは、人間たちを睥睨する神の視座を象徴しているかのようだ。光に向かい、光を背にし、空気や風の音、湿度まで伝えようとする透明感溢れる映像に圧倒される。
逡巡する女と男。罪の意識、魂の彷徨、目眩く感情の移り変わりを独白とも会話ともつかぬ台詞が連なる響きは、新しいスタイルの音楽劇か。

本作でマリックが舞台に選んだのは、米国テキサス州オースティン。音楽の街だ。一年中、様々な音楽フェスが開催され、ライヴハウスやスタジオが軒を連ねる。音楽を生業とする2人の男、歌の世界に進路を求めた女は、2人の男の間で揺れる。冒頭から断片的に挟まれる臨場感溢れる躍動的なフェスのシーン。登場人物の前に現れる様々な(本当の)ミュージシャンたち。
パティ・スミス、スウェーデンのリッキ・リー、ジョン・ライドン(セックス・ピストルズ)、イギー・ポップ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズらが本人役で出演するのだから贅沢な布陣だ。
ミュージシャンたちが繰り広げる現代のラヴストーリーなのだが、比重が置かれているのは恋愛のほうだったのかもしれない。ルーニー・マーラ、ライアン・ゴズリング、マイケル・ファスベンダーが”仕事”をしている場面は意外なほど印象に残らない。3人に絡んで恋愛模様を繰り広げるナタリー・ポートマン、ケイト・ブランシェット、ベレニス・マルローが、少ない出演場面ながら、存在感と光彩を放っているのは、マリックの演出マジックだろう。

成功した富裕なプロデューサーを演じるマイケル・ファスベンダーとの関わりを通し、人生に於ける挫折、裏切り、本当の愛、新しい世界に歩みだして行く彼ら。マリックの新作は思いの外、古典的な恋愛・音楽映画だった。(大瀧幸恵)


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2017年/アメリカ/128分/英語/シネスコ/PG12
提供:キングレコード、AMGエンタテイメント
配給宣伝:AMGエンタテインメント
© 2017 Buckeye Pictures, LLC
公式サイト:https://songtosong.jp/
★12月25日(金)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
posted by グランマゆきえ at 14:24Comment(0)アメリカ