哀愁しんでれら

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監督・脚本:渡部亮平
音楽:フジモトヨシタカ
撮影監督:吉田明義
出演:土屋太鳳、田中圭、COCO、山田杏奈、ティーチャ、中村靖日、正名僕蔵、銀粉蝶、石橋凌

児童相談所で働き、平凡な毎日を送っていた小春(土屋太鳳)。だが、祖父が倒れて車で病院に向かうも事故に遭遇し、父親が飲酒運転で連行されてしまう。さらに、自転車屋を営んでいた自宅は火事になって廃業になった上に、恋人が自分の同僚と浮気している現場を目にしてしまう。全てを失って打ちひしがれる中、離婚歴がある裕福な開業医・大悟(田中圭)と出会う。8歳になる彼の娘ヒカリと打ち解け、彼からプロポーズされた小春は結婚し、一気に幸せの頂点に立つ。

観終わってから数日は、身体の中に衝撃が残っていた。あの土屋太鳳が?田中圭が!これほど闇の深い難役を演じるとは…。土屋太鳳が出演依頼後、3回は断ったというのも頷ける。それが本人の意思によるものか、事務所NG、スポンサーNGかは定かではない。が、今までのお人形さんのように可愛らしい役柄とは根本的に逆を向く狂気を孕んだヒロイン像から、土屋太鳳の”脱皮したい”意思が感じ取れた。

逆に脚本を読んでから、ノリノリで即決したという田中圭。前半と後半の演じ分けには、”先を読ませない”という強い信念と役者魂が乗り移ったようだった。
しかし、本作に於いて最も存在感を発揮し、主演2人を寄せ付けない名演を見せたのは、8歳で63万人以上のフォロワーを持つインスタグラマーのCOCO。驚くことに演技初体験だという!怪演、熱演、達者…そんな表現が陳腐に思える程の輝きを放っている。正直、顔立ちの可愛らしい女の子ならCMタレントなどから選べば良かったろう。
「COCOの持つ空気感は、他の誰にも真似できない魅力を放ち、演技力を超えた人間そのものに宿るパワーで溢れていました。演技経験ゼロの子役を使うリスクも当然考えました。ひとつ間違えれば映画すべてが台無しになってしまう可能性もあります。だけど、そのリスクを負ってでも、COCOは賭けてみたいと思わせる魅力的な存在でした」と渡部亮平監督は語る。賭けは見事に奏功した。

本作は渡部監督のオリジナル脚本である。コンプライアンス厳しい昨今の映画業界で実現させるには困難な内容と推察する。お伽話からダークファミリードラマ(というジャンルがなかったとしたら邦画では初?)へと変容して行く展開に応じ、色調は暖色から寒色系へ、『ラ・ラ・ランド』を思わせるワンカット長回しのミュージカルシーンを中心に配すなど、確かな計算とセンスに基付いた技量を見せてくれた。

ネタばれできないストーリーのため、銀粉蝶のいぶし銀のような演技が映画全体を引き締めていた点と、「白馬に乗った王子さまより、外車に乗ったお医者さまよ!」の名台詞が最後まで効いていたことをお伝えしたい。
(大瀧幸恵)


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2021年製作/114分/G/日本
配給:クロックワークス
(C) 2021 『哀愁しんでれら』製作委員会
公式サイト:https://aishu-cinderella.com/
★2021年2月5日(金)から、新宿バルト9他、全国公開

プラットフォーム(原題:El Hoyo/英題:The Platform)

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監督:ガルダー・ガステル=ウルティア
出演:イバン・マサゲ(ゴレン)、『パンズ・ラビリンス』『ミリオネア・ドッグ』「わが家へようこそ」、アントニア・サン・フアン

ゴレンは禁煙するために「穴」と呼ばれる「VSC/垂直自主管理センター」に入った。携帯品は一つだけ、6ヶ月の間に読み終わるように「ドン・キホーテ」の本を持ち込んだ。ガスで眠らされて目覚めると老人が自分を見つめていた。ベッドと洗面、トイレのほか何もない部屋で、床と天井に大きな四角い穴が開いている。詳しいことを知らされなかったゴレンに、老人は決まりごとをいくつか教えてくれた。老人は長い間ここにいて、下層の悲惨さを知りつくしている。自分たちがいる48階は良い階だと言うが、ゴレンは食べ散らかされた残り物を口にできない。
ルール1:一ヶ月ごとに階層が入れ替わる
ルール2:何か一つだけ建物内に持ち込める
ルール3:食事が摂れるのはプラットフォームが自分の階層にある間だけ

1日1度、上の階の残り物が載ったプラットフォームが下りてくる。最下層まで行くと凄いスピードで上がって戻る。食べて生き残ることしかすることがない。知るにつけ、とんでもない場所だとわかるが、途中で出ることはできないしくみだった。

受賞歴
2019 トロント国際映画祭(ミッドナイトマッドネス部門):観客賞受賞
2019 シッチェス・カタロニア国際映画祭:最優秀作品賞、視覚効果賞、新進監督賞、観客賞受賞
2020 ゴヤ賞:特殊効果賞受賞

無神論者だが、宗教的意図を孕んだ映画には敏感なほうだ。スペイン発のSFシチュエーションスリラーと銘打たれた本作に、ローマンカソリックとイスラム文化の融合を感じ取るのは深読みし過ぎだろうか?生活に宗教や他国・地域の文化が溶け込んでいるスペインは、イスラム支配の時代も長かったはずだ。
これが長編デビュー作というガルダー・ガステル=ウルティア監督は、意識的に宗教的メタファーを埋め込んでだ気がしてならない。¨晩餐¨が調理される広い厨房。夥しい数の調理人と食材。それらを差配する責任者の威厳ある佇まいは、オーストリア出身の映画監督・俳優エリッヒ・フォン・シュトロハイムのようだ。殺風景な牢獄と思しき「垂直自主管理センター」。美術セットの質感が高いため、主人公の男が天上から射す眩い光を見上げる場面は、スペインゴシックの大聖堂に見えなくもない。

縦構造による階級別フロアなら、英国作家J・G・バラード原作『ハイ・ライズ』を映画化した作品が想起される。英国社会のヒエラルキーを象徴するタワーマンションの洗練とは真逆に位置する本作。が、阿鼻叫喚の凄まじいバイオレンスと階級闘争という意味では共通項がある。
そのまま真横に倒し、疾走する列車内に格差社会を可視化したのがポン・ジュノの『スノーピアサー』。ヴィンチェンゾ・ナタリは『CUBE』で四面体からのサバイバルを描いた。

どの作品も混沌とした実相を具現しながら、実は整然とした規範に支配されていることに気付かされた。冒頭のバイオリン奏。メトロノームのように規則的な音を鳴動し続ける劇伴。妙に格調高くシュールな世界観を保持しながら、繰り広げられるグロテスクな人間の確執。台座(プラットフォーム)に置かれた残飯さえ、画角の中にマスターショットで捉えられる時、パゾリーニの『ソドムの市』を想起する。

持ち込みが許可された一品に小説「ドン・キホーテ」を選んだ男は、夢想主義の救済者か?無垢の象徴である白いパンナコッタと、或る人物は、悲惨極まる緊張状況の中で一点眩しい。監督は最後に希望の予兆を託した。
(大瀧幸恵)


シネマジャーナル作品紹介2はこちら!


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2019年/スペイン/カラー/シネスコ/94分/R15+
配給:クロックワークス
(C)BASQUE FILMS, MR MIYAGI FILMS, PLATAFORMA LA PELICULA AIE
http://klockworx-v.com/platform/
★2021年1月29日(金)より劇場公開
posted by グランマゆきえ at 00:45Comment(0)スペイン

わたしの叔父さん(原題:Onkel)

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監督・脚本・撮影・編集フラレ・ピーダセン
出演:イェデ・スナゴー(クリス)、ペーダ・ハンセン・テューセン(叔父さん)、オーレ・キャスパセン(ヨハネス)、トゥーエ・フリスク・ピーダセン(マイク)

デンマークの農村。酪農を営む叔父と親子のように暮らしている27歳のクリス。少し足が不自由な叔父に手を貸しながら、静かな暮らしを続けている。訪ねてくるのは獣医くらい。マイクと出会って、いつもの暮らしにちょっとだけ違う風が吹く。実は獣医になりたかったクリスに、道が開けるチャンスが訪れる。

「昔ながらの農家の暮らしが消滅する前に映画にしたかった」「主人公が人生の選択に葛藤する姿を描きたかった」
監督のフラレ・ピーダセンは製作動機を語る。本作の丹念に描かれた営農作業を観ながら想起したのは、フレディ・M・ムーラー監督の名作『山の焚火』。そして、人生の選択に葛藤する姿を静謐に表現する様は、小津安二郎監督の一連の家庭劇を重ねていた。ピーダセン監督は小津作品に最も影響を受けたという。ちなみに、デンマークではローアングルで撮ることを「オヅ・ショット」と呼ぶそうだ(!)
全編を通してクローズアップよりマスターショットを多用し、カメラポジションは基本FIXとした点に、明らかな小津作品へのリスペクトが感じられた。主人公が激しく動揺する或る場面のみ手持ちカメラが使用される。ぜひ注目してほしい。この場面を境に、映画は「人生の選択に葛藤」し始める。

起床から叔父の着替えを手伝い、トースターで小麦パンを焼く。伝統的な牛舎で乳牛たちの世話をし、昼食はライ麦パンのオープンサンド。午後の作業後、夕食はソーセージや豚挽ミートボール、キャベツの煮込み、じゃがいも添え。夜は2人でボードゲームに興じる。週に1度は街へ買い物...。こうした日常生活の反復描写が続く。何しろ、映画開始後10分間は台詞が一つもないのだ。
説明的な経過描写を極限まで省いた贅肉のない語り口をピーダセン監督は観客に手渡す。ヒロインはなぜ叔父と2人暮らしをしているのか?27歳の若さで人里離れた農場を継いでいる訳は?ドキュメンタリー映画を思わせる自然な運びから、登場人物たちの視線の交わりから、揺曳する陽炎のように、ゆらゆらとそれらは解きほぐされていく。デンマーク語を解さない身としては、映画の舞台である南部ユトランド地方の方言は分からないが、素朴さを伴う語り口調は伝わった。

自然光撮影による絵画調の映像美も本作の魅力だ。北欧の特徴である下部にだけカーテンが付いた大きな窓から注ぎ込まれる柔らかな光。木目の食堂、居心地の良さそうなリビング(流行りの¨ヒュッゲ¨的空間?)にはペンダントライトの他、幾つもの間接照明が灯り、2人の顔を優しく照らし出す。
フラットな田園風景に曇天の空から射す一筋の光線。生まれて初めてヘアアイロンをかけた髪を揺らす微風。ヒロインがコペンハーゲンで入る回転寿司店では人工照明が画面を支配し、¨非日常¨を表現する。
様々な過程を経て下した終盤の決断は、監督が失われる寂しさではなく受け継ぐ潔さと未来への希望を託したのではないか?
何より、日本人のメンタリティともいえる「小津イズム」が、デンマークに継承されている安らぎと喜びを感じた106分だった。
(大瀧幸恵)


シネマジャーナル作品紹介2はこちら!

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2019年/デンマーク/デンマーク語/カラー/DCP/シネスコ(1:2.35)/106分/
字幕翻訳:吉川美奈子/デンマーク語監修:リセ・スコウ
後援:デンマーク王国大使館/
配給・宣伝:マジックアワー
(C)2019 88miles
公式サイト:https://www.magichour.co.jp/ojisan/
★2021年1月29日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次ロードショー